✝️平和へのロンド✝️
新章2 《学園》
新暦50年 5月。
輪道達が入学してから約1ヶ月がたったある日。
ルナの馴れ馴れしさは一行にエスカレートしており、輪道の家、霜月家まで足を運んでしまう。
輪道はルナのストーキングとも思える行為に激しく激怒しルナはそんないつになく感情を出した輪道に動揺し激しく戸惑っていた。
そんな中、様子を見ていた義理の姉である《霜月ウルミ》から家の中に入るよう促され2人は渋々頷き家の中へと入った。
ルナが霜月家へ足を踏み入れると1番に目がいったのは、玄関先で迎え入れてくれている輪道の姉の後ろでコソコソと恥ずかしそうにしている女の子の姿だった。
ルナが輪道に妹かと尋ねると、輪道は首を振り視線を姉へと促した。姉は照れながらも自らの娘であると、《美海奈》の事を紹介した。
霜月家の家の造りは「霜月氷蓮流」当主こと《霜月信玄》がもつ道場と一体化した昔ながらの和式建造物であり、それを見たルナは昔に書物で読んだ城と勘違いし、先程まで輪道と言い合っていたことも忘れ大はしゃぎ。
それを見た美海奈は余りにあどけないルナの姿に笑みをこぼしたが、しかし輪道は相変わらずの仏頂面でルナに対して冷たく接するのであった。
翌日、輪道が学校へ行くとルナが昨日の件について謝罪してきた。
いつも上から目線であったルナが深く頭を下げて謝罪してきたのに対して、輪道はいつになく動揺しさらにルナは
「輪道…謝罪だけでは足りないから私の身体で良ければ好きに使いなさい」
と言い出したのだ。
わけがわからない。
そこに丁度よく登校してきた輪道の中学時代からの友人である「レッシー」こと《八神烈震》に助けを求めるのである。
突然助けを求められた烈震は事情も聴かずただ頷き、突然輪道に殴り掛かった。
「ナイスショット…。」
その光景を目の当たりにしたルナは怒り狂い、烈震へ問答無用の決闘を申し込むのであった。
結果オーライで輪道は窮地を脱した。
そして迎えた決闘当日。
学園内にあるデュエル用のフィールドで烈震は
「俺は女には手を出さない!」
と宣言する中、当初の発端であるルナは古くからエージリッヒ家に伝わるという伝家の宝斧「聖なる戦斧-グラント」を持ち出し戦闘態勢を整えていた。
試合開始の合図。
ギャラリーには他学年の生徒や学園屈指のエリートが所属すると言われる、「ナイツ・オブ・エース」の生徒達も居た。
その中に一際目立つ大きな大剣を背に担ぐ銀髪の男。彼こそが「ナイツ・オブ・エース」のリーダーであり、学園内最強の生徒である《レオン・カイゼル・フリード》であった。
これが、輪道にとっての未来永劫のライバルとの初見になる。
そんなギャラリーの事など気にも止めず、試合開始早々にルナは烈震に攻撃を仕掛けた。
ルナが両腕に魔力による淡桃色のオーラ纏わせ振るったグラントによる閃光は烈震に向かって真っ直ぐに走った…。
烈震は避けなかった。
ルナによる渾身の一撃を正面から受けた。
前面の服は破け、皮膚には魔力の熱による焼跡ができていた。
烈震は一言…
「お前の輪道に対する思いはそんなものか!」
と言い放った。
するとルナは二撃目を撃ち込む為、全速力で烈震に突撃した。
そして今度は烈震の脳天に向かってグラントを振り下ろした…。
一瞬場の空気が固まり、グラントを振り下ろした際の爆風が収まるとそこにはルナが全体重を乗せて振り下ろした戦斧を、長い槍の矛先で受け止める背の高い金髪のヤンキーがいた。
この男は第七地区に存在する自称治安維持を目的とした法外組織「イノセンス」のリーダーであり、輪道と烈震の中学時代からの悪友である、《霧島刃沙羅》であった。
その異様な光景に呆気を取られるギャラリーとルナ。サングラス越しに見える彼の鋭い金眼は紛れもなくルナを見据えていた。
「俺の大切な友人を塵にするつもりか?」
刃沙羅はルナにそう尋ねると、長槍でグラントを払った。
突然の外野乱入に明らかに取り乱してしまったルナを、輪道はついに放ってはおけずその場を仲介しようとフィールドに足を踏み入れた。
その時、ルナに向かって刃沙羅の長槍から雷にも似た光が走った。
迷いはなかった。
刃沙羅は昔からそうゆう奴だと輪道は知っていた。
魔力によって構築された雷を今度は輪道が持つ黒い刀剣によって弾いた。
ルナは輪道の背の向こうで泣きじゃくっている…。
後には引けないそう確信した輪道は、戦う理由もお互いにわからないまま戦闘態勢に入った。
「久しぶりの友人に対して随分なお出迎えだわん」
と刃沙羅。
対して輪道は
「お前もな…」
と一言。
元々決闘していた2人は戦える状態ではない。
ギャラリーは何故か盛り上がる一方であった。
最初に攻撃に踏み切ったのは刃沙羅であった。
自身の身の丈185cmよりも長い、それこそ2mはあるであろう長槍を頭上高く片手で振り回し始めた。とっさに身構える輪道。
回転する長槍をその勢いのまま地面に突き刺した。
「走れ!迅雷!!」
刃沙羅がそう言うと次の瞬間、地を這う雷が輪道に向かってきた。
避けることはできない…なぜなら後ろには半べそのルナと瀕死状態の烈震が横たわっていたから。
「完全にアウェーだ…」
すると輪道は黒い刀剣を持っていない左手の掌を広げ地面についた。
「蒼き光よ、我が身を守りし障壁となれ」
輪道が冷静にそう唱えると3mほどの蒼い光の壁ともいえるものが現れ雷を防いだかと思えば、間髪入れずに刃沙羅は二撃目を放つ…瞬く間に雷は目の前まで迫ってきた。すると今度は輪道が黒い刀剣の刃を地面突き立て、言い放った…。
「蒼き閃光よ!!」
一瞬にして蒼い光が雷を打ち消しそのまま刃沙羅への攻撃へと繋がった。
刃沙羅は間一髪で空中に飛んで交わすも、続けての二撃目は空中で回避不能の刃沙羅へと向けられていた。
「天より蒼き現界の灯火よ、我が刃に宿りて仇名す者を貫け…」
輪道がそう唱えながら黒い刀剣を突き出すと、刃の先に蒼い魔法陣が現れ高圧縮された魔力の砲撃が刃沙羅目掛けて放たれた。
刃沙羅はそれを長槍を横にして結界を張り防いだが、余りの勢いに身体が大きく吹き飛ばされた。決着がついたのである…。
その後、学園の教員達が駆けつけ自体の収縮に当たった。刃沙羅は輪道に対して一言
「アディオス!」
そう告げると一目散に姿を消した。
ギャラリー達も教員達が来るのとほぼ同時にそれぞれ散って行った。
輪道もこれ以上の厄介事は御免だと、瀕死の烈震を担ぎ泣き止んだと思われるルナの腕を強引に引っ張りその場を去った。